競技スキーのエッセンスをベースにもち、
正確かつダイナミックな滑りが魅力の春原優衣。
本人だけでなく周囲も待ち望んでいた初優勝の背景には、
自身のたゆまぬ研鑽と心から信じきれるマテリアルの存在があった。
相棒ともいえるスキーTCシリーズとともに戦った春原優衣の3日間に迫る。
春原優衣のこれまでの最高成績は、2015年の第52回大会での女子総合2位。以来、ほぼ毎回表彰台に上がりながらも、頂点には手が届かずにいた。多くの関係者やファンからは、「いつ勝ってもおかしくない」という声が聞かれていたし、彼女自身も「今年こそ優勝しなくては」という思いを胸に秘め続けていたに違いない。しかもオガサカスキーのスタッフとして、基礎スキーシーンのベンチマークモデルである「TCシリーズ」の開発に携わり、それを愛用する立場からも、「このスキーで勝ち、高い性能をアピールしたい」と考えていたことだろう。
「ここ数年の技術選の流れは、競技スキーのエッセンスをどう表現できるかという観点が重視されるようになってきました。従来からオガサカのスキーは、扱いやすさがセールスポイントになっていて、いわゆる基礎スキーでは、滑り手の表現力を引き出しやすいという特長がありました。そのメリットをそのままに、競技的な技術にも対応できるよう、スキー自体が持つ強さを年々高めて開発が進んでいたのです。今回私が使った最新モデルは、そういった性格がかなり熟成したスキーで、ターン前半の早いタイミングからたわみを引き出すことができ、強い圧に耐えながら縦にスキーを落としていくといったテクニックに対応しています」
現在の技術選では、正確なスキー操作はもとより、切れや走り、鋭くタイトなターン弧が重要な着眼点となっている。またリズム変化をともなう種目では、大きな負荷に耐えてスキーを推進させるフィジカルも不可欠だ。スキーヤーに強い負荷を強いると同時に、スキーにもそれに耐えるだけの強さが必要となったのは、ごく自然な成り行きであった。
「もちろん強さを求めるだけで、優れたスキーになるわけではないんです。オガサカならではの扱いやすさをスポイルすることになっては本末転倒ですし。だから、どんなシチュエーションでもスキーヤーが技術を表現しやすい扱いやすさを大切に、いかに競技スキー的なニュアンスをブレンドしていくかがポイントだったと言えます。私自身も開発陣と一緒に雪上テストを行なってきましたが、ここ数年はレーシングチームスタッフの田島あづみさんらとも多くのディスカッションを重ねてきました。オガサカにはトライアンというレーシングスキーがありますが、その開発ノウハウも、TCシリーズの進化に役立ったはずです」
ワールドカップなどトップレーシングの世界でも、テクニックの進化は年々加速している。特にGSにおいては、大きく振られたポールセットをタイトなターン弧で通過するために、フルカービングではなく前半でダイナミックにスキーを動かして方向づけし、エッジングで生じる強い負荷に耐えつつスキーを走らせるテクニックが定番となった。技術選では、ここまで極端なターンテクニックとはならないものの、スキーヤーやスキーにかかる負荷は数年前とは比較にならないほど大きくなっているはずだ。
「そういった傾向は、すべての種目で共通していますが、リズム変化の種目では特に顕著ですね。ハイスピードの中でクイックにターン弧を変えていくには、筋力や高いバランス能力が欠かせませんし、また勇気も必要です。今回のコースには、緩んだ雪に雪面硬化剤がまかれていました。それが効いているところと効いていないところがあり、足元の雪が逃げたと思ったら次の瞬間強烈にグリップするというような、大変難しい状況でした。こういう時は、自分がスキーをどこまで信じきれるかがとても重要なのです」
マテリアルを信じた上で、自身の持てる技術を100%発揮できたこと、これこそが春原優衣の勝利を語る重要なファクターだったのだろう。それだけに本人にとっては、真に価値ある優勝だったことは間違いない。
「大会中、あ、スキーが身体の一部になっている!と感じたことが何度もありました。特に大回り系は初日から調子が良く、非常に難しい雪質だったにもかかわらず、この雪で(スキーを)たわませられるかなとか、積極的に走らせられるかな、といった不安を一切感じなかったんです」
多くの選手が苦しんだ厳しいバーン状況の中、「大回り 急斜面・整地(ナチュラル含む)」で、春原は92・0ポイントをマークして種目別1位、「小回り 急斜面・整地(ナチュラル含む)」でも91・4ポイントで種目別2位となり、トップで初日を終えた。2日目も好調ぶりは変わらず、「小回り 急斜面・不整地」で91・6、「総合滑降 急斜面・整地(ナチュラル含む)」では、94・2ポイントというミラクルスコアをたたき出す。
「今年は全体的に、大回り系のフィーリングが良く、初日から波に乗れたと感じています。しかもマテリアルに全く不安がないから、どんなに難しいバーンでも思い切って動いていけた……、それだけスキーが自分のものになっていたということなのでしょうね。男子リーゼンは、斜度はさほどではないのにとにかく難しいコース。ねじれ方が変わっていて、フォールラインも読みにくいし、そんなところでもスキーを信じて、なんの迷いもなく攻めることができた、これは自分にとっても大きな収穫でした」
オガサカでは、春原ら選手やテスターたちがあらゆるスキーを雪上でテストし、性能を煮詰めていくという。もちろんこういった開発プロセスは、他のメーカーでも同様だ。しかし、オガサカは国産ならではの強みを生かし、実際に技術選で使用するトップスキーヤーたちの意見が設計製造の現場にスピーディにフィードバックされる。春原もそういった作業の中枢に身を置いていたため、スキーを信じきれる幸せを、誰よりも強くかみしめていたということなのだろう。
「切れや走りは当たり前の性能。その上で私は、トップからテールまで全体がしなやかにたわんでくれるスキーが好きなんです。そういうスキーは、技術選選手だけでなく、すべてのスキーヤーにとって心地よいもののはずです。もちろんTCは、テクニカルコンペティションを視野に据えたモデルですが、同時に乗る人の挑戦意欲をかき立てて、確かな上達に導いてくれるスキーでもあるんです。私が、このスキーで滑っている時に感じる幸せな気持ちや、ターンを描く高揚感などを、多くのスキーヤーに味わってほしい。大会を終えた今、そんなことを思っています」
made in JAPANの誇りとクオリティ。テクニカルコンペティションシーンにおけるベンチマークとして、トッププレーヤーから絶大な信頼を獲得している技術選対応モデル
ジュニア技術選をターゲットに開発されたユースモデルのTC。
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