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栗山太樹の定番お悩み解決術
その癖、ボクに任せなさい「癖」その1・・・内倒

SAJナショナルデモンストレーターの栗山太樹が、ありがちな癖の矯正法を伝授。正しいポジションを身につけることで、バランスの良いシルエット、確実なスキーコントロールを手に入れることができます。バッジテストの級別テストや、プライズテストの受検を目指している方は必見です。また、上達を目指し、より難しい状況にチャレンジしようとする方にも、大いに役立つはず。シーズン前の頭と身体のトレーニングとして、ぜひ参考にしてください。

栗山太樹

くりやまひろき●1980年2月28日生まれ。東京都出身。新潟県スキー連盟所属。SAJナショナルデモンストレーター認定6期。高校時代から6年間、スキー留学でオーストリアに滞在。その間、210戦にもおよぶFISレースに出場した経験をもつ。2004年の技術選に初出場。今年の第55回大会で、自己最高位となる11位を記録した。スキー教師としてのわかりやすい指導とスキー理論にも定評がある。ガーラ湯沢スキースクール所属

目標

状況に合ったポジションを身に付ける

このコーナーでは、後傾過多、前傾過多、内倒などの偏ったポジションを、適切なポジションに矯正していきます。級別テストや、プライズ検定合格を目指すスキーヤーにとって、斜度やターン弧に合った適切なポジションは欠かせません。また、上達のためにも、良いポジションを手に入れることは必須といえます。状況が難しくなればなるほど、いい加減なポジションでは対応できなくなってくるからです。

外スキーに乗ろう

正しいポジションを手に入れることで、外スキーにしっかりと乗ることができます。そしてそれは、スピードのレベルを問わず、自分から外スキーを動かしていけるポジションを身に付けることにつながります。
きれいに整備されたバーンや滑り慣れた場所は、多少くずれたポジションでもなんとか滑ることができるかもしれません。しかし、荒れた斜面や急斜面では、ポジションのズレは暴走や転倒などの大きな失敗につながります。コブ斜面では、スピードをコントロールできず、コブから飛び出してしまうこともあるでしょう。
どんな斜面でも一定のリズム、一定のスピードでコントロールできるようになることを目標に、トレーニングに取り組んでください。

内倒って、なぜいけないの? どんなパターンがあるの?

ターン内側に身体の軸が倒れてしまう内倒は、外スキーにしっかり乗ってターンをコントロールすることができなくなるところが問題です。上達するためには、確実な外スキー操作が欠かせません。ですから、早い段階で内倒の癖を矯正しておく必要があるのです。
内倒には、重心がターン内側に入り内脚に乗ってしまうパターンと、身体の軸自体が内側に倒れるパターンの2つがあります。共通点は、外向傾のポジションが見られないということです。そのため外スキーに乗ることができず、安定感に欠けた滑りとなっています。

内倒 ①身体の軸が内側に傾く

体軸を傾けて、スキーのサイドカーブに乗って滑っています。整備された斜面であれば問題ありませんが、少し状況が難しくなると対応できません

内倒 ②内脚に乗ってしまう

腰が落ちて、重心がターン内側に入り過ぎています。外脚への荷重があまく、内脚に乗っているため、不安定な滑りになっています

克服のポイント

内倒の癖を克服するためには、外脚にしっかり荷重するための外向傾の意識が必要です。ターン中は外向傾のポジションをキープして、身体の軸が内側に倒れないように、そして重心が内脚に乗ってしまわないように気をつけます

太樹のお手本

スピードや状況に合った外向傾のポジションをキープし、基本的にブーツの真上でスキーをコントロールするようにしています。体軸の傾きや首の位置、腕の位置などが変わると、左右のターン弧のバランスも変わってしまうので、ポジションにはかなり気を使っています。ターン始動時は、どこから動き始めるのか、スタンスはどのくらいをキープするのか、すねの角度はどうかなど、細かいところまで意識しながら滑ることが大切です。

いまどきのスキーは、そのサイドカーブの特性から、多少内倒していても曲がれてしまいます。ですから、内倒癖を抱えていても、級別テストでいえば2級ぐらいまではいけてしまうかもしれません。ただし、そこから先が問題です。1級に合格するためには、確実なスピードコントロールが不可欠です。斜面状況も難しくなりますし、ただスピードをセーブするだけではなく、自分からスピードを出さなくてはいけない場面もでてきます。そうしたとき、正しいポジションが身についていないと、合格は難しいでしょう。

POINT

スピードなどの条件に合った外向傾をキープ

TRAINING

1 シュテムターン

緩斜面

POINT

確実な重心移動

癖を治していく場合、失敗のリスクも伴うハイスピードの滑りではなく、さまざまな動きが比較的自由になる低速の滑りが適しています。ここでは、緩斜面のシュテムターンで、内倒の癖を修正していきます。シュテムターンは、引き寄せのタイミングなどで、さまざまな滑り分けが可能です。

まず、緩斜面で引き寄せの遅いシュテムターンにトライしてみましょう。ポイントは、脚を山側に開きだしたとき、その脚にしっかりと重心を移すということです。両脚の膝や足首は、伸ばしたままでは動きづらいので、軽く曲げて行ないます。上体や目線を安定させて、ターン後半はしっかりと外脚に乗り、次のターンに向けて脚を山側に開きだします。このとき、重心を移すタイミングで、外向傾がナチュラルに出るように意識することが大切です。

引き寄せる動きは、すり足でも、少しスキーを持ち上げるような動きになっても問題ありません。大切なのは、内脚の動きではなく、次の外スキーにしっかりと乗ることです。

太樹CHECK1

ローテーションに注意しよう!

開きだしたスキーと同じ方向に腰と上体が正対してしまう、ローテーションに注意します。両肩、目線が開きだしたスキーと同じ方向を向かないように、少し開きだしたスキーよりもターン外方向に向くようにしましょう。脚を引き寄せるときも、内脚の動きと一緒に身体が次のターン方向に向いてしまわないように、意識することが大切です

太樹CHECK2

すねの前傾を意識しよう!

シュテムターンなど外向傾を意識した滑りで大切なのは、すねの角度です。すねが立っていると、なかなかうまく外向傾の姿勢がとれません。重心はなるべく前に、すねの前傾角度を少し強めてポジションをキープしましょう

急斜面

POINT

外力に対応したポジション

緩やかな斜面で、外スキーへの重心移動が確認できたら、次に中急斜面で、早いタイミングの引き寄せのシュテムターンにトライしてみましょう。このパターンは、パラレルスタンスでの重心移動につながるものです。

ポイントは、確実な外スキーへの荷重や、適度な外向傾のポジションなど、緩斜面で行なったシュテムターンと変わりません。ただし、斜度によって滑走スピードが上がるため、緩斜面のときよりも身体は自然にターン内側に入ってきます。これは、遠心力などの外力に対応するためです。このとき、内倒しないように、あまり身体を斜面に対して垂直にしすぎると、今度はターン外側にもっていかれてしまうので、注意が必要です。

滑走スピードに合わせて、うまく外力とバランスをとり、最適なポジションを探すことが大切です。

太樹CHECK

ターン中の身体の傾きに注目!

緩斜面/傾きが小さい

急斜面/傾きが大きい

外向傾のポジションは、スピードとのバランスで生まれます。外脚に乗ってシュテムターンを行なうという同じ意識でも、斜度やスピードによって傾きに変化がでることを理解しましょう

TRAINING

2 腰に手を当てて滑る(ノーストック)

POINT

外腰への意識

左右の腰に手を当てて滑ります。このとき、ただ手を当てるだけでなく、ターン外側の腰に重さが乗っていることを感じることが大切です。

内倒していると、外腰に重さを感じることはできません。実際に手で触れて、ターン中、外腰に意識を集中するようにしましょう。慣れてきたら、内倒で腰が浮いてしまわないように手で押さえ、外スキーへの荷重をチェックします。

左右のバランス、前後のバランスに気をつけて、スムーズな滑りを目指しましょう。懐を深く構えて、前傾はやや強目を意識すると、バランスを取りやすくなります。こうした意識は、後傾を防ぐことにもつながります。

太樹CHECK

外スキーへの荷重を確実に!

ターン外側の腰を下に押すように意識すると、自然な外向傾のポジションが生まれます。このとき、ターン弧に合わせて目線、上体の向きなども調整します。適度な外向傾が確実な外脚荷重を引き出してくれます

太樹 アドバイス

一瞬の内倒癖

初心者の頃は、身体の軸をターン内側に傾けて、スキーのサイドカーブに乗って滑る内倒癖を多く見かけます。整備されたバーンであれば、何の問題もなくターンを描けてしまうため、一度この癖がついてしまうと、なかなか抜けません。少しずつ上達して、斜度の急なところへもいくようになると、スピードコントロールの必要もでてくるので、ただ体軸を傾けるだけの内倒癖はだんだんと見られなくなってきます。

2級や1級といった級別テストを受けるレベルになると、外向傾の意識も生まれてきて、外脚荷重でターンを描けるようになってきます。そうしたレベルに見られる内倒癖は、切りかえで、スキーの面が変わる前にターン内側に身体が落ちてしまうパターンです。

一瞬、内脚に乗ってしまうため、そこから次の外脚に荷重するのが難しくなってしまうのです。ターン後半、しっかり外脚に乗っていても、このような一瞬の内倒癖があると、なかなかスムーズなターンを描くことができません。一瞬の内倒癖に気がついたら、まずはシュテムターンのトレーニングで、外脚への荷重を確認しておきましょう。

少しずつ修正を重ね、根気よく取り組むことが大切です!

TRAINING

3 踏みかえターン

POINT

両足に乗れるポジションとバランス

一つのターンの中で、足踏みをしながら滑ります。ターン中、どちらかの脚に頼って滑るのではなく、どちらの脚にも荷重を移せるポジションを確認してください。これまで述べてきたように、外脚荷重が基本ですが、内脚にも荷重できるナチュラルなポジションを取ることで、バランス幅が広がり、さまざまな状況に対応する能力も鍛えることができます。内倒していたり、後傾のポジションでは、足踏みをしながら滑ることはできないので、このトレーニングは、内倒しているかどうかのチェックにもなります。うまく足踏みができないときは、内倒の癖を疑ってみましょう。

足踏みを繰り返すコツは、足首を動かすことです。足首、膝、腰、股関節を柔らかく使い、スムーズな足踏みを意識しましょう。いずれかの関節が動いていないと、動作もスムーズさに欠けたものになってしまいます。シュテムターンのトレーニングの後に、この足踏みを行なえば、トレーニングの効果を確認することもできます。

太樹CHECK

最初は直滑降から!

ターンを描くことが難しい場合は、直滑降での足踏みから始めましょう。前後左右のバランスを整えるのにも効果があります。慣れてきたら、徐々にターンへチャレンジしていきます

まとめ

今回は、内倒癖を克服するために必要な要素を紹介してきました。この癖は、知らないうちに染み付いている場合が少なくありません。他のスキーヤーにチェックしてもらったり、足踏みのトレーニングで確認したりして自分が癖のある滑りになっていないか知っておくことが大切です。

滑りに直接影響を与える癖は、じつはそんなに多くありません。よくある癖を把握して、その矯正法を頭に入れておきましょう。そして、矯正のためのトレーニングに積極的に取り組むことで、さらなる上達を目指してください。(栗山太樹)

解説:栗山太樹 / 写真:黒崎雅久 / 撮影協力:志賀高原 熊の湯スキー場、熊の湯温泉 熊の湯ホテル
制作協力:揚力株式会社