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スキーヤーのための心と体を調和させ
滑りを上達 ピラティス入門講座

ちまたでは空前のフィットネスブーム。ヨガ教室に24時間営業のトレーニングジム、果ては美尻専門エクササイズまで、とにかくさまざまあるけれど「オフトレにまでお金はかけられないし、できればスキーに役立つものがいい」。そんなスキーヤーのわがままに応えてくれるのが今回紹介する「ピラティス」なんです♪

教えてくれるのは

SIAデモンストレーター
湯下万里

ゆげまり●エコーバレーのスキー宿、アンデルマットの娘に生まれ、3歳からスキーを始める。学生時代はアルペンレースで活躍、大学卒業後はインストラクターに転向。現在はSIAデモンストレーター4期目。マットピラティスインストラクターの資格も持つ

特別出演
湯下大地

ゆげだいち●2歳からアルペンスキーを始め、北海道の名門かもい岳レーシングに所属。現在は妻・万里と同じくエコーバレースノースポーツスクールに所属するSIAデモンストレーター。

用意するのは コレ!

マット

ヨガマットよりも少し厚めのマットがオススメ。背中をつけた時に痛くないのだとか

ボール

直径20cmくらいのビニール製ボール。空気を抜くことで弾力性を調整できるのもの

タオル

大きめのバスタオル。畳んで枕代わりに使う。ヨガブロックでも代用可能だ

できれば鏡の前で

できれば大きな鏡の前で身体の動きを見ながら行なうのがおすすめ!

ピラティスは今から100年ほど前にドイツ人看護師、ジョセフ・H・ピラティス氏が傷病兵のリハビリとして考え出した運動法です。今では機能改善のリハビリやアスリートのトレーニングなどにも親しまれています。そしてピラティスで得られる効果は、スキーにも役立つものなんです。

まず「自分のイメージ通りに身体が動かせるようになる」こと。自分の滑りのイメージと実際の滑りとのギャップが大きすぎると、せっかくのアドバイスも生きませんよね。身体の一つひとつに、意識を向けて行なうピラティスをトレーニングに取り入れることで、スキーの上達は早まるはずです。

次に「正しい身体の使い方がわかるようになる」こと。ピラティスでは骨盤、背骨、肩甲骨、頭などが正しい位置にある状態を「ニュートラルポジション」と呼んでいます。このニュートラルポジションをキープして運動することで、日常生活の癖などの誤った身体の使い方によって引き起こされる、あらゆる不調を改善し、けがを防ぐことができます。

最後に「機能的に体幹を安定させ、強くする」ことができます。「ピラティス呼吸」という呼吸法で、体幹の深層筋に刺激を与えながら運動することで、身体の骨格を支えるインナーマッスルから、身体の動きを作るアウターマッスルを上手に連動させることができるようになります。雪面から来る衝撃を適切に処理し、パワーを効率よく谷方向に使っていくスキーにはとても効果的です。

PART 1呼吸と姿勢

ピラティスは身体の隅々にまで意識を集中させて行なうことが大切。まずは今の身体の状態に向き合うことからスタートッ! 心と身体の調和を目指しましょう

ニュートラルポジションを知ろう

まずは自分の状態を知る

マットに仰向けに寝て、自分の身体の状態を骨一つひとつから意識してみよう。左右対称でなくても直す必要がなく、あくまで自然な時の自分の身体の状態を把握するだけでOK

前方トライアングルとは

左右の上前腸骨蕀(じょうぜんちょうこつきょく、ASIS=骨盤の前に出っ張った、ズボンのベルトが引っかかるところ)と恥骨を結ぶ三角形の面

仰向けで寝た状態、もしくは四つん這いの時は前方トライアングルは地面と平行になる。立位、もしくは横向きに寝た状態では前方トライアングルは地面に対して垂直になる。姿勢維持の土台となる骨盤の向きを整え、背骨には自然なS時カーブが生まれる。背骨にとって外力などによる負担が、1箇所にとどまりにくい状態。ただしこれはあくまで目安で、痛みがある場合などは調整してもOK。

腰の後ろは手のひら一枚分

顔面もおおよそ地面と平行に。また開いた左右の足首、膝をそれぞれ結んだ線の中心点と尾骨、背骨、頭のてっぺんまでがまっすぐになるように

ピラティス呼吸をマスターしよう

インナーユニットとは

体幹の機能的な安定のためには、インナーユニットと呼ばれる4つの深層筋(インナーマッスル)の働きが大切。ピラティス呼吸でインナーユニットの働きを促していこう

  • ① お腹をベルトのように覆う「腹横筋」
  • ② 背骨一つひとつを支える「多裂筋」
  • ③ 肋骨の下で呼吸を導く「横隔膜」
  • ④ 骨盤の下で内臓を支える「骨盤底筋群」

①まずは腹式呼吸で横隔膜を大きく動かそう

お腹を風船のように360度膨らませるイメージで、鼻から息を吸い、口からすーっと吐く。お腹の動きが大きくなってくるまで続ける

②胸式呼吸で呼吸筋を動かそう

胸の中の風船を膨らませるように鼻から息を吸い、口からすーっと吐く。肋骨と肋骨の間の筋肉が働き、胸郭が動いてくるまで続ける

③ピラティス呼吸をマスターしよう

ピラティス呼吸のベースは胸式呼吸。通常の呼吸とは異なり、息を吐く時は腹筋群を使って強制的にはーっと吐く。呼吸筋を使い、しっかりと息を吸い、吐く時は肺の中の空気を絞り出すようにしっかりと吐く。ウエストのコルセットを締めるようにお腹をしめ、同時に肋骨も締める。骨盤底筋群は常に頭の方向に軽く締め上げておく(息を吐く時はしっかりと締める)

ピラティス呼吸中は常にスイッチON!

上前腸骨蕀から2~3センチおへそ側、そこから2~3センチ下あたりを指先で押す。息をしっかりと吐ききっていくと、指をピンと押し上げる筋肉があるはず。それが腹横筋にスイッチが入った証拠。ピラティス呼吸は常にスイッチをONにしておく

PART 2関節の動きを引き出す

ここで紹介するのは言わば“準備運動”。偏った姿勢をとり続けるなどしていると身体の機能は失われていく。周辺の筋肉をほぐし、関節本来の動きを引き出すのが狙い

ペルビックアーティキュレーション

ボールを骨盤の下に挟み、お腹の力を軽く使って骨盤を傾ける(腰を丸めるイメージ)。リラックスしてボールの上で骨盤を転がす。常に背中の伸びを感じながら行なう

ノットアヘッドウィズボール

首の下に空気を抜いたボールを枕代わりに挟む。まずは上を向き、次に左右。頭と首の境目にある細かい筋肉をほぐす。首の動きの50㌫を占める関節の動きを滑らかにする

フィールグッドアームス

胸椎の動きが悪いと腰への負担が多くなるため、動きを引き出したい。横向きで両手を伸ばしたら上の手をゆっくりと伸ばしながら後方へ送る。ポイントは前方トライアングルを地面と垂直に保つこと。腰も一緒に回ってしまうと胸椎の回旋は引き出せない。手で頑張ってひねろうとすると肩を痛めやすいので注意

ランバースタビリティ

ニュートラルポジションから片膝ずつ股関節を開く。ピラティス呼吸を行ないながら、体幹を安定させて行なう。骨盤は膝の動きにつられることなく、また動かしていない脚はぴたっと安定させる

ヘッドロールアップ

膝にボールを挟み、背骨を上から1個ずつ持ち上げるイメージで腹筋を使い、息を吐きながら上体を起こす。起こし切ったら足を片方ずつ上げる。上体を戻すときに息を吸う

ヒップエクステンション

ニュートラルポジションで内ももにボールを挟み、キュッと締める。足裏全体で床を押しながらお尻を持ち上げる。この時、背骨を下から1つずつ持ち上げるのがポイント。下ろす時は上から1つずつ下ろしていく。常に背中の伸びを感じながら行なう

スパインストレッチ

前方トライアングルが地面と垂直になるように座り、手は胸の前で肩幅に広げる。大事な物を遠くへ届けるイメージで、息を吐きながらお腹に力を入れて前屈し、息を吸いながら戻る

マリ先生 memo
  • 各運動は7~10回くらい行えばOK!
  • お腹に力が入っていない状態で行なうと怪我をする恐れがあるので、必ずピラティス呼吸で行なうこと!

PART 3脊柱の動きを滑らかにする

ここからの運動はそれ自体の難易度は高くないものの、PART1で登場した“ピラティス呼吸”と連動させることが必要。しっかりとマスターした上で行なおう

背骨一つひとつを正しい位置で動かす意識が大切

ここではさまざまなアプローチで脊柱を動きを引き出す運動を紹介。すべてに共通するのが「背骨一つずつを正しい位置で動かすイメージを持つ」こと。「これが脊柱の動きを滑らかにし、一つひとつの関節を支えている筋肉を強化して体幹の安定につながります」。またピラティスだけでなく日頃からこうした意識を持つことが大切だという。「体幹を表層筋(最長筋や腹直筋など)ばかりでガチッと外側から固定したように身体を使ってトレーニングなどを続けていけば関節に負担がかかり、必ずと言ってよいほど不調を引き起こします。もちろんスキーをするときも同じです」

スワンアーチカーブ

うつ伏せになり、肘が肩の真上になるようにスフィンクスポジションをとる。お腹、お尻の筋肉をキュッと締めて、腰が反りすぎないように注意して胸椎を丸める→反らす、を行なう

マリ先生 petit memo
*1 効果が変わるので呼吸を反対にして行なうのもおすすめです♪

スレットザニードル

四つん這いの姿勢で、フィールグッドアームスと同じ要領で息を吸いながら片手を上げて、そこからさらに脊椎を逆方向に回旋させるイメージで、息を吐きながら胸の下を通す

スタート時の四つん這いの姿勢から軸(脊椎)の位置はキープしたまま回旋させるのがポイント

PART 4全身の滑らかな動きにつなげる

脊椎の動きを引き出せたところで、次はさらに難易度が高い運動にチャレンジしてみよう。あえて軸が安定しにくい姿勢で行なうことで体幹が強化される

より複雑な動きで体幹を確実に強化する

全身の滑らかな動きにつなげるための運動は、脊柱の動きを滑らかにする運動に比べ、ぐっとレベルが上がる。

例えば「スレットザニードル」は55ページで紹介した「フィールグッドアームス」の発展系。「四つん這いになってやることで、横になってやるよりもずっと軸がぶれやすいです」。同様に「サイドキック」も、体幹の力が抜けて上体が潰れてしまっていては効果は激減。また動きがより複雑になっており「『バックエクステンション』は身体の背面の筋肉を使って脚を持ち上げながら、頭を持ち上げるときは背骨を一個ずつマットから持ち上げる意識で動かします。この時、パワーハウスをしっかりと安定させておくことが必要です。頭を持ち上げる時に、上体を反りすぎてしまっているとしたら、それはお腹に力が入っていないということです」 。

これらの運動をしっかりとこなすことができれば、体幹を強化させられること間違いなし。

サイドキック

横向きの姿勢で脇腹、背中に力を入れて上体をまっすぐ保ったままマットから起こす。そのまま上になった脚を骨盤の高さまで上げて、前後に動かす。息を吸いながら前に出し、吐きながら後ろに引く

前に出す時はつま先を引きつけ、反対に後ろに引く時はかかとを引きつけることでより効果は高まる

バックエクステンション

息を吸って骨と骨の間隔をあけるように、背骨を長くするよう意識。それをキープしたまま、息を吐きながら脚、上体を持ち上げていく。2セット目は反対の脚から上げる

EXTRAスキーにつなげる

最後はスキーの上達につながるエクササイズにトライしてみよう。シンプルな動きながらピラティス呼吸と連動させること滑りの安定感をグッと高めてくれるはず

ピラティスVかかと上げ

つま先を少し開いたニュートラルポジションでかかとをつけて立つ。息を吐きながら、母指球だけでなく足指の付け根全体で地面を押して、かかとを上げて爪先立ちをする。このとき内腿、お腹、お尻をぎゅっと締め、背骨を長くするように意識する

基本ポジションでのスクワットに応用

「例えば脊柱が固いため股関節で谷側を向こうとして、極端な姿勢になってしまって外脚にうまく乗ることができないでいたのが、脊柱が滑らかに動くことで、より自然な外向傾が取れるようになるはずです」。このほかにも体幹の強化することで体軸がぶれにくくなるのはもちろん、インナーマッスルから身体を動かすことで関節への負担が減るのだという。ここではそうしたピラティスの効果をスキーにつなげるエクササイズを紹介。ピラティス呼吸と連動して基本ポジションからスクワットできれば、滑りの安定感を高めてくれるはず。

「“ピラティスを行なう=スキーの上達”ではありませんが、トレーニングに取り入れることで効率よく上達するための土台を手に入れることができます。オフトレでもよいですが、シーズン中でもゲレンデに出る前の準備運動として取り入れるのもおすすめです。滑る前に身体の滑らかな動きを引き出して、体幹を支える筋肉にスイッチを入れておくことで、安定したポジションでスキーができるようになりますよ♪」

スクワット

ターン中と同じ姿勢でスクワットを行なう。息を吐きながら脚を伸ばし、足裏全体で地面を押す。伸び切ったらお腹とお尻をぎゅっと締めて、いつでも歩き出せるくらいしっかりと立つのがポイント

写真:近藤ヒロシ / 協力:温泉山岳ホテル アンデルマット