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ブーツフィッティング・ドキュメント
王様の イスに 座れば

ブーツフィッティング・ドキュメント

いよいよ、スキーシーズン到来!
ところが、まだ用具をそろえていないというピンチな状況の人もいるのでは?
理想のブーツに出合えていない、でも妥協はしたくない。
そんな、皆さんを代表して 編集部Sが突撃取材を敢行!

「12月に入れば、落ち着くでしょう」とある占いにそう書いてあったのだが、編集部Sはいつものように地に足が着いていない。スマホをのぞけば引っきりなしに入ってくる初滑りの報告、年末年始によって前倒しされた本誌の締め切り、そして街に流れるクリスマスソングなど、落ち着かない理由はいくつかあるが、もっとも大きな要因は「まだ自分に合うブーツと出合えていない」ことだった。

そんなとき、一本の電話が入る。

「日本に4台しかない、新型のフィッティングマシンを見に来ませんか?」
声の主はフィッシャーブランドを手がける(株)ゴールドウインの堀川さん。常に的確な言葉を選び、用具についてカタログどおりではない、実感のこもった解説をしてくれるプロダクト責任者だ。行ってみなければわからないが、もしかしたら300日余り悩まされたブーツ問題に終止符を打てるかもしれない。ということで数日後、Sは東京・神田小川町にある「フィッシャー ・チューニング・ベースTOKYO」へ向かった。

フィッシャー・チューニング・ベースTOKYO

東京都千代田区神田小川町1-8-8 VORT神田小川町ビル
TEL:03-6260-8555
営業時間:11時~19時 ※毎週水曜定休

プロセス その1バーチャル・トライ・オン

「フィッシャー ・チューニング・ベースTOKYO」は、フィッシャーブランドを総合的に展開する日本初の空間だ。1Fには、高性能の設備と、経験と実績を備えたスタッフで運営されるチューンナップルームがあり、2Fにはフィッシャーのスキー&ブーツの最新モデルが展示され、スタッフによるコンサルティングも受けられる洗練されたショールームが置かれている。

例の「新型」は、このショールームに入った真正面にデン! と構えていた。「3Dフットスキャナー搭載バキュームステーション」という名前で、何やらいろいろな装置が組み込まれていそうな白と黒の台に、コックピットのようなイスとモニターが設置され、さながら最新のゲームアトラクションの様相だ。

「とりあえず、コレを履いて座ってみてください」
コレとは、網タイツ? ではなく、スキャニングソックスという方眼紙のようなマス目が編み込まれた薄いソックス。このマス目に沿って足型を正確に計測するらしい。

「では、王様のイスへ」
うむ、よき座り心地じゃ。じゃなくて、まずはモニターに向かって、年齢、性別、身長、体重などの基本情報を入力。次に「後ろ向きに立ってください」と、手すりを持って真っ直ぐに立つ。

「動かないでくださいね。今から小さいヤツが一周します」
小さいヤツというのは、3Dフットスキャナーのこと。まもなく黒い箱形の物体が現れ、台の真ん中に立つSの回りをゆっくりと動き出す。後ろに回っても思わず視線を感じるほど、じっくりと見つめてくる小さいヤツ。約30秒間のにらめっこが続き、スキャニングが終了した。

「さて、どう出ますかね?」
データのアップロードに1~2分かかる。どこにアップロードしているのかというと、海の向こうだ。じつはこのマシン、コーパス社というドイツの企業が開発したもので、足の形を3Dで解析することができ、その情報を一つのサンプルとして提供すると同時に、世界中の足型と比較することができるのだ。ほどなく、Sの足型がモニターに映し出される。

「わりと、きれいな足をしていますね」
そう言われて悪い気はしない。マネキンの足のようにリアルな3D模式図を見て「これが、俺の足かぁ……」とS。両足のサイズ、足の幅、足の周長(周囲の長さ)、甲の高さ、床から15㌢の高さの脚の周長、同じく25㌢の高さの脚の周長、踵の角度など、ブーツのフィッティングに欠かせない部分が数値化されて表示されると、読者の皆さんにとってはどうでもいいことが明らかに。

普段の生活では26.0~26.5センチのスニーカーを履き、「もともと左利きだったせいか、左足のほうが少し大きいんです」というナゾの理論を説いていたSは、「左足/25.1センチ、右足/25.6センチ」というまさかの測定結果を受け、ハトが豆鉄砲を食らったような顔に。また「男性の中では細めだと思う」と話していた足の幅は「100ミリ」。これは「26.0センチの場合の平均値が101ミリ」という世界の足の統計から見てもほぼ標準で、世界の中心で勘違いをしていたことが判明。さらに、左足の踵の角度が4度ほど内側に倒れていることから「左外脚の右ターンが苦手」という、これまでひた隠しにしてきたウイークポイントを露呈するハメになった。

王様のイスこと「3Dフットスキャナー搭載バキュームステーション」に着席

3Dスキャンで足型を計測

  • マス目が編み込まれたスキャニングソックス。その回りを「3Dフットスキャナー」(写真左)が移動していく

  • スキャンされた自分の足が、マネキンのような3D模式図として映し出される

  • 足のサイズ、幅、甲の高さ、踵の角度など、フィッティングに欠かせない要素の数値が表示される

  • 計測した足型を元に、専用のウェブカタログと照合し、最適な相棒候補を選び出してくれる

足の悩みや特徴を視覚化して共有できる

さて、表示された3D模式図は、もう一つ重要なことを教えてくれる。それは、実際にブーツを履いたときに「当たる」と予測される箇所を、マークで知らせてくれるのだ。例えば小指の付け根の外側であったり、くるぶしの下の部分であったり。ちなみにSの場合は、左足の踵が4度内側に倒れているからか、左足のインサイドに強いプレッシャーがかかることが予測され、それがマークによって示されている。

何を言いたいのかというと、王様のイスに座る人(お客さん)とお店のスタッフ(ブーツを作る人)が、足の特徴や悩みなどを「視覚化して、共有できる」ということだ。これにより、Sのように誤った情報でブーツ作りを進めてしまうことを防げたり、足の特徴に合わせてより精度の高いフィッティングを行なうことが可能になる。

あまりのハイテクぶりにすっかり感心し、満足顔のS。しかし、このマシンが「王様のイス」と言われるゆえんを思い知るのは、じつはこの後のことだった。

「では、ブーツを選んでいきます」と、堀川さんがモニターをタッチした次の瞬間、9つほどのブーツの画像が映し出される。なんと、ここまでの情報を元に、AIが専用のウェブカタログと照合し、Sにお薦めのモデルを選び出したのだ。上位にはフィッシャーのカーブシリーズなど、サイズやフレックス値まで定められた候補が並ぶ。主要メーカーの最新機種はほとんど読み込んでいるため、なかには当然フィッシャー以外のモデルも挙がってくるが、最上位にならないのは「変形率」が低いからだという。ブーツを選んだあと、個々の足型に合わせるべく「バキューム」による熱成形を行なうわけだが、フィッシャーのモデルの場合には、専用のプラスチック素材を用いたシェルを採用しているため「変形率(成形の精度)」が圧倒的に高くなる。そのシミュレーションも兼ねたうえで、最高の相棒となりうる数モデルをはじき出したのだ。いわば、王様が履く一足を選ぶために、世界中から候補を募っている状況だ。

以前は、テクニカルだ、クラウンだ、技術選に挑戦だ! などと威勢のよかったS(※でも不動の1級)だが、ここのところすっかり丸くなってしまい、理想のブーツのタイプも変わってきた。「きちんと滑れるけど、脱ぎ履きがしやすくて、長時間履いていても疲れないような、でも頼りないものではなくて、それなりにスピードを出してもしっかりと応えてくれそうな……」と何ともはっきりしない、それでいてワガママという迷惑っぷりを発揮。

「快適性を重視したタイプも見てみましょうか」と堀川さん。すると、画面に「RNG ONE(レンジャーワン)」というシリーズが映し出される。「レンジャーワンは、スキー/ウオークモードの切りかえを側面のレバーで行なえるなど、フリーライドモデル『RNG FREE(レンジャーフリー)』で採用されている快適性や便利な機能を、ゲレンデシーンに適応させたモデルです。フレックス値が120の機種であれば、ゲレンデをハイスピードターンで楽しむことができますよ」。元レーサーの堀川さんの言葉にあんどしたSは、あっさり「レンジャーワン 120」を相棒にすると決めた。

文:編集部 / 写真:渡辺智宏 / イラスト:さいとうじゅん / 協力:フィッシャー・チューニング・ベースTOKYO