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チームの力が作り出した、熱い戦いの4日間
激闘、HEADデモチーム

第59回全日本スキー技術選において、スーパーファイナルに7人(男子4人、女子3人)を送り込み、改めてチームのパワーを見せつけたHEADデモチーム。

若手からナショナルデモンストレーターまでが固い結束力の下に熱い戦いを繰り広げ、技術選の一大勢力らしい存在感をアピールしてくれた。HEADデモチームの強さは現在進行形だ。

若手からベテラン勢までが、固い結束力で結ばれたチーム

技術選シーンで活躍するファクトリーチームの中でも、ヘッドデモチームは毎年独特の存在感を放ってきた。それはシーズンを通じて若手からベテランまでが一丸となり、各地区予選そして全日本への準備を進めてきたチーム体制によるところが大きい。もちろん、そういった活動は、多くのチームに共通するが、ヘッドの場合、地区予選を突破できない選手も含めて、同じ環境を用意し、トップ選手の技術や経験という貴重な財産が、すべてのメンバーにフィードバックされるようなシステムを構築している。

こういった緻密な体制は、フレッシュな若手選手を育てる意味で大きな効果を上げ、事実多くの有望な若手がヘッドチームの主要メンバーとして活躍するようになっている。そんな中、今回の技術選ではチームのけん引役でもあるベテランや中堅が「底力を見せる」形で上位に食い込み、それを若手が追うという形になった。まさにヘッドのチームパワーを象徴する展開だったと言っても異論はないだろう。

チーム内でのトップランカーは、女子が川端佑沙の総合4位、男子が兼子稔の総合13位。川端は昨年の5位から順位を上げ自己最高位を記録、兼子はウィニングマッチへの進出こそ逃したものの、彼本来の戦闘力を周囲に十分再認識させ得る結果だったと言えるだろう。

「ずばり優勝、最低でも表彰台に上がれるようにしたい」

大会前そう語っていた川端は、予選〜決勝では、多少ミスが出たものの総合3位。進出したスーパーファイナルでは、小回り(急斜面フリー)で281ポイントを出し種目別2位を獲得した。

「攻めすぎてミスを誘発することだけは避けたかった。縦に落としたり回し込んだりと、自分が持つターンバリエーションを生かして滑りました」

そのパワフルな滑りは、先にゴールしたチームメートの勝浦由衣が思わず抱きついてしまったほど……。4日間を通じて彼女のベストランだった。

円熟の技巧を見せたベテラン2人が、チーム内首位の成績を記録

初参加から10年目という節目、川端佑沙は自己最高の4位を記録。整地種目での切れと走り、不整地種目でのアグレッシブなパフォーマンスなど、オールラウンダーとしてのポテンシャルを見せつけた

ベテランとして、チームの若手を引っ張る立場でもある兼子稔。今回はカービングの質がジャッジの重要観点となっていたが、「スキーの性能を信じ、それを生かすように滑った」と語っていた

ウィニングマッチでゴールドビブの春原優衣とともに、若手の滑りを見る川端佑沙。これからは、この2人に憧れる若い選手が最大のライバルになるのかもしれない

「技術選にデビューして17年目。今年は自分の技術を一新して、新たな気持ちで取り組んできました。ある程度はその結果が出せたのではと思います」

ここ数年の兼子は、彼本来の実力に点数が結びつかないことも多かった。だが今大会では初日から好調ぶりを見せ、予選の「小回り(急斜面ナチュラル)」では2位を記録。この種目のイメージが良かったのか、総合15位で進出したスーパーファイナルでも「小回り(急斜面ナチュラル)」で283ポイントをマークして2位となった。惜しくもウィニングマッチへ進むことはかなわなかったが、ベテランが見せた隙のない滑りは、チーム内の士気を大いに高めていたようだ。

アイドリング期間を終えた若手選手たちも全開で攻める

層の厚さを誇るヘッドチームの中でも、この数年で頭角を現してきた若手たちの活躍は印象的だった。特に初出場ながら男子総合15位となった奥村駿は、

「競技で培った深いターン弧と後半の走りが、自分の長所だと思うので、そこを大切にしました。特に整地種目では脚のストロークを長く使いつつ、自分からスキーを踏んで失速につながってしまうことがないようにしました。今回の順位に満足せず、さらに上を目指していきたいと思います」と語り、来シーズンのさらなる健闘を誓った。

男子総合20位の山田椋喬は、スーパーファイナルの「小回り(急斜面ナチュラル)」で283ポイントの種目別2位。

「スラロームのイメージでターンコンビネーションを表現しましたが、もっと精度を上げられば、さらに良い滑りができたのにと、少し悔しいです。今大会、整地種目はまあまあの出来だったかもしれません。でも不整地はまったくダメだった。やはり全種目でムラのない戦いをしなくては上位に上がれないと痛感しました」

と謙虚な姿勢で大会を振り返った。

昨年の9位から一つ順位を上げて女子総合8位となったのは勝浦由衣。

「自己最高の順位を更新することはもちろんですが、マテリアルを信じて今まで苦手だった大回り系でも良い滑りをしたいと思っていました」

そう本人が話した通り、決勝の「大回り(急斜面ナチュラル)」では種目別4位、翌日のスーパーファイナル「大回りスペース規制(急斜面ナチュラル)」でも5位を記録。小回り系、とくに不整地種目には強かった彼女だが、大回り系でもポイントを積み上げられるのだという「新たな可能性」を示してくれた。

円熟の技巧を見せたベテラン2人が、チーム内首位の成績を記録

山田椋喬(左)と奥村駿(右)。アルペン競技のテクニックを持ち込み、整地種目を中心にベテラン勢をおびやかす存在となっている2人。彼らの戦いから新たな技術が生まれ、それが将来に引き継がれていくのかもしれない

月山スキー場でレッスン活動にも携わっている奥村駿。初めての出場で男子総合15位というのは、十分に立派な成績。しかし、本人の視野には、すでにその先が映っているはずだ

山田椋喬の武器は、大回りでの圧倒的な切れと走り。昨年の36位から大幅に順位を上げたが、本来のポテンシャルはこんなものではないはず、それを誰よりも知っているのは、ほかでもない本人だろう

勝浦由衣にとって、大回り系である程度見せ場を作れたことは大きな収穫だったに違いない。彼女が全種目で満遍なくポイントを稼げるようになれば、優勝争いに加わってくることは容易に想像できる

スーパーファイナルの名木山大カベ。圧巻のパフォーマンスを見せた川端佑沙を、祝福の笑顔で迎える勝浦由衣。チームみんなで戦っている、そんな雰囲気の1コマだった

彼ら、若手の躍進と並行して、ヘッドチームの中堅メンバーの活躍も大きかった。昨年ナショナルデモンストレーターに認定された鈴木洋律は、持ち味である力強さに正確なスキー操作が加わり、貫禄さえ感じさせる試合運びを見せてくれた。突出した種目があるわけではないが、気がついてみれば確実に上位につけている……。そんな安定感こそ彼の強みなのかもしれない。

中堅というよりベテランと呼ぶのがふさわしい渋谷潤子も、その豊富な経験値から見せる確かなテクニックで素晴らしい活躍を見せてくれた。予選の「小回り(中急斜面不整地)」1位、決勝の「小回り(急斜面不整地)」で3位、スーパーファイナルの「小回りフリー(急斜面不整地)」で5位と、不整地種目での抜群の強さを発揮し、最終成績は女子総合11位を記録した。

「不整地種目は、とにかく攻める気持ちで行きました。他の種目で落ち込んでも、不整地の調子が良かったから気持ちを強く持ち続けられました」

今大会におけるヘッドデモチームの活躍は、ベテラン&中堅勢の本領発揮と若手の健闘が顕著であった。技術選は個人競技だが、ヘッドデモチームには、常に「チーム全員が一丸となって戦う」という空気感が漂っている。このことこそが強さの証しであり、また多くのニューフェイスを輩出する原動力になっているのではないだろうか。

ヘッドチーム スーパーファイナル進出者

今回、ナショナルデモンストレーターとして技術選に臨んだ鈴木洋律。現役デモの誇りは、間違いなく彼のパワーの源になっていたことだろう。どの種目でも安定してポイントを取れるのは彼の強みだ

HEADデモチームでは、山田椋喬とともにアルペン競技のテクニックをフルに駆使したスタイルで戦う奥村駿。スーパーファイナルでは不整地種目でも高ポイントをたたき出し、その可能性をアピールした

今回、ナショナルデモンストレーターとして技術選に臨んだ鈴木洋律。現役デモの誇りは、間違いなく彼のパワーの源になっていたことだろう。どの種目でも安定してポイントを取れるのは彼の強みだ

スキーの切れと走りは、技術選選手の中でも間違いなくトップクラスといえる山田椋喬。あとは種目ごとのムラをなくし、不整地種目でもポイントを積み上げることができれば、一気にジャンプアップするはずだ

大会前の宣言通り、自己最高順位を更新して4位入賞を飾った川端佑沙。パワフルでスピード感あふれる滑りは、まだまだ進化を止めないはず。来シーズンも確実に優勝争いに絡んでくるだろう

技術選に初出場した時には高校生だった勝浦由衣。デビュー以来、多くの経験を積んで、その技術を高めてきた。順位も着実にアップしてきており、今後の活躍がますます期待されるスキーヤーになった

不整地種目での素晴らしいパフォーマンスもあり、間違いなく「記憶に残る選手」であった渋谷潤子。悪雪にも強く、攻める姿勢を常に忘れない滑りは、若い選手にも鮮烈な刺激を与えたに違いない

今後の活躍を期待したいフレッシュな選手

アルペン競技出身の園部竜也。初出場ということもあり、小細工を考えず自分の滑りそのままで戦ったという。男子総合92位で惜しくも決勝に進めなかったが、そのポテシャルは期待大

昨年、現役高校生ながら初出場で女子総合25位となった撫養いづみ。今シーズンはスキー操作の精度を上げる取り組みを重ねて臨んだが、惜しくも女子総合38位にとどまった

写真:黒崎雅久、渡辺智宏、文:近藤ヒロシ