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第60回 全日本スキー技術選手権大会 Preview

2023年3月8日(水)~12日(日)
長野県白馬八方尾根スキー場

60全日本スキー技術選間近に迫ってきた。

ハイスピード化若手の台
そしディフェンディングチャンピオ武田竜&栗山未来の連覇は?

など話題にこと欠かな今大会をプレビューする


ジャッジを務め沢寿岡田利修、競技委員長太谷祐介、
さらに注目選手へのインタビュー介。

もう本番待ちきれな

滑りの総合力が試される
新たな技術選のかたち

来たる3月9日(木︶〜12日(日)にかけて第60回全日本スキー技術選手権大会が、長野県白馬八方尾根スキー場で開催される。ここ数年は、新型コロナウイルスの影響により大会そのものがキャンセルとなったり、ギャラリーの入場規制が行なわれたりと、通常の運営ができずにいたが、今回は本来の形で開催される見込みだ。

さらに第60回という節目に当たることもあり、参加選手の意気込みも熱いものがあることだろう。そんな興味深い今大会について、全日本スキー連盟教育本部スキー・デモンストレータープロモートチーム監督である松沢寿と、ヘッドコーチの岡田利修、競技委員長の太谷祐介の各氏に話をうかがった。

今大会では、技術選の歴史を飾る名勝負が繰り広げられてきた黒菱(下から見て右側のコブ斜面と左側の整地斜面)と兎平(下から見てリフト側の整地斜面と左側のコブ斜面、およびソデグロ)が大会バーンとして使用される。全日程を通じて、雪面を硬く仕上げた「ハードパック」で競われる種目が多く、また黒菱のコブ斜面では自然コブのバーンが用意されるところなどが大きな特徴となっている。

「近年の傾向として、カービングスキー世代の選手が整地種目で抜群の強さを発揮する中で、スキーさばきに長けた選手が不整地で意地を見せるという図式があったかと思います。しかし技術選は、ある一つの種目が強いだけでは勝てず、あらゆる斜面・雪質に対応できるスキルが必要です。今回は昨年よりも1週間遅い日程の中で、より滑走性の高い「速いバーン」を確保して競われる種目が増えています。予選ではスペース規制も行なわれますし、このバーンは競技経験のある選手にとっては有利でしょう。その反面、黒菱では自然コブを使ったコースが用意されます。スキーさばきがものを言うシチュエーションなので、コブが得意な選手には大きな魅せ場になると思います。また、ソデグロはナチュラルという設定で、状況に合わせて柔軟に対応できる総合的な能力が試されます」(松沢寿)

昨年の第59回大会でも、競技出身の選手が整地種目で圧巻の強さを発揮する一方で、不整地種目を得意とする選手が巻き返しを図るという場面が多く見られた。実際に、整地種目で振るわなかったにもかかわらず、不整地で挽回し、終わってみれば上位入賞という戦いぶりを見せてくれた選手もいた。今大会でも、あらゆるタイプの選手に魅せ場が用意されており、抜きつ抜かれつのデッドヒートが繰り広げられるかもしれない。

「どんなタイプの選手にも魅せ場が用意されている……、これは今大会の大きな特徴でしょう。また、あらゆるシチュエーションで良いパフォーマンスを発揮できるオールラウンダーにもチャンスがあります。本当の意味で滑りの総合力をもっている選手が評価される大会だといえます」(松沢寿)

「昨年に比べて、スペース規制の種目は減りました。これは、大回り、小回りそれぞれのレギュレーションというか、必要なターンスペースはこのくらいという認識が選手に浸透したことが理由です。ソデグロのナチュラルバーンは総合的な滑走能力を見るという意味では象徴的な種目となるでしょう。思わぬ雪質の変化もあるでしょうし、一瞬の判断力や対応力で、差が付く種目となるでしょうね」(岡田利修)

「まず、昨年の第59回は、新しい技術選のあり方を提案すると同時に第60回大会はどうあるべきかを示唆するものでした。その前提で今回は、新しい技術選のかたちが、種目設定の面でもより明確に打ち出されたといえます。

決勝の大回りですが、予選で横幅約15m、落差約25mのスペース規制を行なっていますので、これをベースサイズにした種目となります。規制が外れた中でも正確にターンスペースを作り、しかもハイスピードの滑りができるかどうかが鍵となります。技術選は必ず八方で開催されるわけではありません。ターンスペースにベースサイズを設定することは、どこで大会が開かれても設定をルール化できるメリットがあります。

技術的な観点としては、ポジショニング、荷重動作、エッジング(カービング)、雪面コンタクトなどが細かくチェックされます。ソデグロでの小回りはナチュラルバーンという設定です。種目観点にもあるように、総合的なスキー操作の習熟度が試されます。さらにターン前半でしっかりとしたスキーの捉えを出せれば、荒れた急斜面でもスキーの推進力を表現できるので、そのあたりが鍵になるでしょう。

マテリアル規制も同じくソデグロで行なわれます。この種目はある意味で、もっとも一般スキーヤーが参考にしやすいものかもしれません。1級〜プライズの検定でも、ほとんどの人が1本のスキーで受検しますし、その場合はショート系のスキーを使う人が圧倒的に多いと思います。ショート系のスキーでハイスピードで、しかも急斜面での大回りをしようとすると、大きな負荷がかかる中で確実にコントロールしなくてはいけませんし、リズム変化でのスキー制御も難しくなります。そういったスキルはまさに滑りの総合力とも言えるでしょう。

天候によってはかなり難しい斜面状況になることも考えられますが、たとえば転倒についても、その度合いによって細かく減点基準が定められ、ジャッジ間で共有されています」(松沢寿)

黒菱

最大斜度31度
平均斜度27度

技術選でも数々の名勝負が繰り広げられた日本屈指のコブ斜面と、滑り出すとどんどんスピードが増していく中急斜面の整地バーン。

予選2種目と、決勝の全3種目の舞台となる

兎平

最大斜度31度
平均斜度23度

代表する急斜面。ここを横に二分割してコブと整地バーンそしてソデグロのナチュラルバーン。

ハードパック、ナチュラル、不整地というさまざまな状況で総合力を競う

「決勝の不整地小回りは、黒菱の自然コブを使用します。雪面コンタクトが重要な観点ですが、ピッチの不規則な自然コブでは、とっさの判断力や対応力が不可欠なので、ベテラン勢にとっては底力を発揮するチャンスですし、またコブ斜面を得意とする若手にとっても魅せ場となるはずです」(岡田利修)

黒菱のコブ斜面といえば、技術選の歴史の中で幾多の名場面を刻んできたメモリアルバーン。新たな技術選の形を打ち出す今大会でも、どんな滑りが見られるか大きな楽しみとなりそうだ。

「SFからWMは、5種目すべて兎平で行なわれ、しかもそのうち4種目が雪面を硬く仕上げたハードパックという設定です。いわゆる速い雪を用意し、ハイスピードの中で正確なスキー操作ができているか、ポジショニング、荷重動作、エッジング(カービング)、雪面コンタクトなど細かな観点からジャッジします。大回り、小回り、フリーともに相当高いクオリティが求められるのは間違いありません。特にフリーについては、従来のようにコース幅いっぱいを使えば見栄えがするというものでは、おそらくだめで、演出に頼らない本質的な滑走技術が試されるでしょうね」(松沢寿)

「SFの不整地は兎平の人工コブを使用します。スキー操作の質はもとより、かなりハイスピードの戦いになるでしょう。また自然コブではないのでピッチも読みやすく、選手にとってはパフォーマンスを発揮しやすい状況だと思います。それだけに全選手が攻めてくるでしょうし、この種目だけではありませんが、ジャッジの我々にとっても気が抜けない4日間となるに違いありません」(岡田利修)

第60回という記念すべき大会で競技委員長を務める太谷祐介は、

「ここ数年は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、大会キャンセルやギャラリーの皆さんに入場規制をご理解いただいたりと、多くの苦労があり、私たち運営サイドも歯痒い思いをしてきました。今回はようやく通常の運営ができるようになり、うれしい反面ほっとしています。今回もスーパーファイナル進出選手のビブドローを予定していますが、昨年よりも広いスペース(八方尾根観光協会を予定)を使って大いに盛り上げたいと考えています。また、雪面を硬く仕上げる種目も多いため、コース作りなどの裏方スタッフにもかなり負担がかかりそうですが、チームワークを駆使して円滑に進めたいと思っています」と話した。

今年の技術選では、刻々と変化する状況に臨機応変に滑りをアジャストさせながら4日間を戦い抜く必要がある。粘り強く戦う選手が勝つか、若さと勢いが武器の若手が勝利をつかむのか? いずれにせよ、今大会が新たな技術選の扉を開くことになりそうだ。参加選手の健闘を祈りながら、本番を楽しみに待つこととしよう。

昨年、ウィニングマッチで種目別1位をマークした関原威吹。不整地種目で上位に食い込めばさらなるジャンプアップも期待できるだろう
北海道予選2位となった神谷来美。今大会ではプレッシャーが最大の敵と語っていた彼女だが、心身ともに充実しているようだ
自身最後の挑戦として、技術選に臨む丸山貴雄。長年シーンを牽引してきたレジェンドの滑りを目に焼き付けたい

写真:黒崎雅久、渡辺智宏 / 文:近藤ヒロシ